10月

書:有賀 心音
友人が「子どもがはじめてしゃべった言葉がまさかの「パパ」や「ママ」ではなく「アンパンマン」だった」と言っていました。私自身も幼いころの写真や記録をみると必ずどこかにアンパンマンがありましたので、もしかしたら最初の言葉が「アンパンマン」だったかもしれません。
このように幼少期、通らなかった人はいないのではないかというくらい、「アンパンマンなくして子育てなし」というのは決して過言ではないと思います。
この書籍は、アンパンマンの生みの親「やなせたかし」さんが、作品に込めた思いや、子どもたちに対する考え方、少年時代の記憶、そして自身の哲学などを書いたエッセイです。
アンパンマンの登場人物で主人公と同じくらい有名なのがバイキンマンです。お話の中ではいつもアンパンマンの邪魔をします。最後は対決して負けてしまいますが、次も懲りずに邪魔をします。
子ども向けの話で、善者と悪者の構図がでると、観るものに、「弱きを助け強きを挫く」善者を見本にし、悪者にはならないような影響を与えることがあります。ところが、悪者のバイキンマンは、子どもたちからさほど敬遠されてはいません。それは、アンパンマンのような見本にはならないけど、どこか憎めない。もしかするとイマイチ「悪」になりきれない面があるからなのでしょうか。
それを象徴しているのが毎度お馴染み、両者の対決シーンです。素手のアンパンマンに対し、乗り物や道具を使って圧倒的有利に立つバイキンマン。しかし、相手を徹底的にいためつけません。必ず相手が倒れる手前で止めています。ちなみに弱ったあと回復してバイキンマンにウィニングパンチをお見舞いするアンパンマンも同様です。
やなせさんはこの点を「手前で止めるというところが、ボクは大事だと思っています。社会においても、善と悪の要素があってバランスがとれて物事の進歩が見られるように、人の心にも善悪の心があって、そのバランスがとても大事です。」(『ボクと、正義と、アンパンマン』より)と言われています。
やなせさんは、この両者の姿から私たち自身の中にある善と悪も「戦いながら共存している」ことを作品の中で伝えたかったのではないでしょうか。
高校生の皆さんは、普段アンパンマンを観ないと思いますが、あの頃より大人になった今、もう一度観てみて下さい。きっと、何か心に響くものがあるはでず。
余談ですが、私の息子の最初の言葉は「パンツ」でした。


