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5月

書:中条 琴乃
昔から「笑う門には福来る」といいますように、笑いは心身の健康によいことが経験的に知られてきました。
一方、近年は笑いと健康との関連が学術的に報告されるようになり、笑いが痛みを減らし、ストレスを解消し、免疫力を上げることなど数多くの健康効果が報告されてきました。しかし、いくら笑いが大切といっても、笑いたくても笑えないことだってあります。
身近な生活でおこった悲しいことにはじまり、戦争や未曽有の自然災害など、自分の責任ではないところから襲ってきた出来事を経験したときに、はたして笑うことはできるのでしょうか。
作家の五木寛之さんは、自身が更年期という、心も体も疲れやすい時期に一日一回よろこぼうと、大きなことから些細なことまで手帳に記していたそうです。すると不思議なことに、よろこぼうと身構えると、よろこびのほうから近寄ってきて心も体も回復したようです。
ところが数年経つと、よろこぼうと意識するあまり、心からよろこべなくなり、「よろこびノート」の効果が薄れたそうです。そこで今度は、「悲しみノート」と題して、今日あった悲しいことを一つひとつ書いていきました。すると、再び心と体が回復し、立ち直ったといいます。
悲しいことがおこったとき、私たちは何とか前を向こうと、あるいは逃避したいという思いから、無理やり笑おうとすることがあります。しかし、表面上の笑いで悲しみから目をそらしても、根本的な解決にはならず、かえって悲しみ続けることにもなりかねません。
むしろ、悲しいときこそ、しっかり悲しんで泣くこと。そうすることで、気持ちの整理がつき、生きる力が湧いてくることもあります。そしてその先に、ほんとうのよろこびを味わえるのではないでしょうか。
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