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こころの掲示板

7月

書:那須野 彩子

 坂本慎太郎氏は「ゆらゆら帝国」というバンドのボーカリスト・ギタリストです。すでに解散していますが、唯一無二の音楽性と世界観を有した伝説的なバンドです。
その坂本氏が二〇一一年、CDショップ「タワーレコード」のポスターに寄せたのが今回の言葉です。ちょうどこの時は、東日本大震災という未曾有の災害により日本中が混乱の最中にありました。音楽が人を救うのか、復興の役に立つのかどうかが問われました。
 時を経て、近年のコロナ禍においても人間はさまざまな問いに直面しました。「不要不急」という言葉のもと、音楽をはじめ、あらゆることに「役に立つのかどうか」のモノサシが突きつけられました。そして「不要不急のものは自粛すべきだ」という風潮が生まれました。
 坂本氏は「役に立たないものが存在できない世界は恐ろしい」と言います。それは、言い換えれば「役に立つものしか存在が許されない世界」「役に立たないものは排除される世界」です。人やモノの価値が、損得や優劣を中心に計られ、そして、役に立たないものは「無駄なもの」として切り捨てられてしまう世界です。
しかして、コロナ禍を経て、このような人間のモノサシが加速しているように感じられます。しかも、それによって大事なことを見失っていることにも気づかないところに、坂本氏の指摘する「恐ろしさ」があるのだと思います。
 だから坂本氏は言います。「音楽は役に立たない。役に立たないから素晴らしい。」と。私達が普段「役に立たない」と言って切り捨ててしまうものからこそ、人間が本当の豊かさや人間性を回復する、本当に大事なことを学べるのではないでしょうか。

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